- 2025年9月11日
- 2025年9月13日
「高血圧、症状がないから大丈夫」は間違い?放置する本当の怖さとは
こんにちは。 岡山市中区中納言で2026年2月に開院予定の『まつもと内科・循環器内科』院長の松本です。
先日、高血圧診療の指針となる「高血圧管理・治療ガイドライン2025」が新たに発行されました。
その中で、改めて高血圧の現状について考えさせられる記載がありましたのでご紹介します。
健康診断の結果を見て、「血圧が少し高めですね」と言われた経験はありませんか?
多くの方が、「特に症状もないし、まだ大丈夫だろう」と考えてしまうかもしれません。しかし、その「症状がない」ことこそが、高血圧の最も怖い側面なのです。
高血圧は自覚症状がないまま静かに血管を傷つけ、気づいた時には心筋梗塞や心不全、脳卒中といった命に関わる病気を引き起こす可能性があります。
◆多くの方が高血圧に気づいていない
高血圧は、日本で最も患者さんが多い病気の一つです。しかし、新しいガイドラインでも、日本の高血圧の管理状況は他の先進国と比べて十分とは言えない、と指摘されています。具体的には、ご自身が高血圧であることに気づいていない方が約1400万人、気づいていても治療を受けていない方が約450万人もいると推定されています。
その大きな原因が、自覚症状に乏しいことにあります。
血圧が高い状態が続くと、血管の壁に常に強い圧力がかかり、血管は次第に硬く、もろくなっていきます。これが「動脈硬化」です。動脈硬化が進行すると、様々な深刻な病気のリスクが飛躍的に高まります。
- 心筋梗塞・狭心症:心臓に血液を送る血管(冠動脈)が詰まったり狭くなったりする病気
- 心不全:心筋梗塞など、さまざまな原因で心臓の働きが悪くなる病気
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血):脳の血管が詰まったり破れたりする病気
- 腎不全:腎臓の機能が低下し、将来的には透析が必要になることもある病気
このように、高血圧は全身の血管にダメージを与え、静かに病気を進行させていくのです。
◆特に注意したい「心不全」との深い関係
上記の中でも、私が循環器内科医として特に警鐘を鳴らしたいのが「心不全」との関係です。
超高齢社会を迎える日本では、心不全の患者さんが急増しており、「心不全パンデミック」とも呼ばれる状況になっています。そして、心不全を引き起こす大きな原因の一つが、長年放置された高血圧なのです。
高い圧力に逆らって全身に血液を送り出し続けなければならない心臓は、次第に疲弊し、分厚く硬くなってしまいます。その結果、血液をうまく送り出したり、受け取ったりするポンプ機能が低下し、息切れやむくみといった症状が現れます。また、高血圧が原因で心筋梗塞を発症した場合、救急病院で適切な治療が行えても、心臓の機能が低下してしまうことがあります。これらが「心不全」の状態です。
以前のブログ『症状のない「前心不全」とは?』でもお話ししましたが、心不全はいきなり発症するわけではありません。
- ステージA:高血圧や糖尿病など、心不全の危険因子がある段階
- ステージB:心臓の機能が少し低下し始めているが、まだ症状がない「前心不全」の段階
- ステージC:息切れやむくみなど、心不全の症状が実際に現れている段階
- ステージD:治療が難しくなる段階
高血圧を治療せずにいることは、まさに心不全の「ステージA」の状態です。症状がないからといって対策を怠っていると、気づかぬうちにステージB、そして症状のつらいステージCへと進行してしまう恐れがあります。
◆「血圧が高いだけ」と軽視しないために。ご家庭での血圧測定を
健康診断や病院で測った時だけ血圧が高い「白衣高血圧」という言葉があるように、一度の測定だけでは本当の血圧は分かりません。そこで重要になるのが、ご家庭での血圧測定です。
私が現在勤務しているクリニックでも、高血圧や心不全の患者さんには血圧手帳をお渡ししています。ご家庭で記録していただいた血圧を外来のたびに確認し、治療方針の検討や薬の調整を行っています。日々の血圧の記録は、治療を進める上で非常に貴重な情報となるのです。

作成中のオリジナル血圧手帳です
◆健康寿命を延ばすための、未来への投資
健康診断で高血圧を指摘されても、「忙しいから」「症状がないから」といった理由で、つい受診を後回しにしてしまう方は少なくありません。
しかし、血圧を適切にコントロールすることは、将来の心筋梗塞や脳卒中、心不全といった大きな病気を予防し、ご自身の健康寿命を延ばすための大切な一歩です。「血圧が高いだけ」と軽視せず、ご自身の未来のための健康投資と考えて、ぜひ一度、お近くの医療機関にご相談ください。
参考文献
・高血圧管理・治療ガイドライン2025