• 2025年9月19日
  • 2025年9月20日

心房細動による脳梗塞とその予防について

岡山市中区で2026年2月に開院予定の「まつもと内科・循環器内科」院長の松本です。

9月19日に倉敷市にある川崎医科大学にお招きいただき、心不全についての認定看護師を目指す看護師の皆様を対象に、心房細動やペースメーカー治療についてお話しする機会をいただきました。

今回のブログでは、その講義の中から特に皆様に知っていただきたい「心房細動と、それに伴う怖い脳梗塞を予防するお薬」について、少し詳しくお話ししたいと思います。

◆なぜ心房細動は怖いのか? ー脳梗塞のリスクー

「心房細動」は、よくある不整脈の一つです。心臓の中にある「心房」という部屋が、様々な原因で規則正しいリズムを失い、小刻みにブルブルと震えてしまう状態を指します。

動悸や息切れといった症状が出る方もいますが、全く自覚症状がない方も少なくありません。しかし、症状がないからといって安心はできません。心房細動の本当に怖いところは、重い後遺症を残しかねない「脳梗塞」を引き起こす危険性があることです。

心房がブルブルと震えることで、心房内の血液の流れがよどみ、「血栓」と呼ばれる血の塊ができやすくなります。そして、その血の塊が何かの拍子に心臓から剝がれ、血流に乗って脳の血管にたどり着いて詰まってしまう。これが、心房細動が原因で起こる「心原性脳梗塞」です。

心臓から飛んでくる血栓は比較的大きいことが多く、脳の太い血管を詰まらせて広範囲にダメージを与えてしまいます。そのため、心原性脳梗塞は、他の原因の脳梗塞に比べて大きな麻痺が残ったり、命に関わったりする可能性が高い、非常に危険な病気なのです。

◆脳梗塞を防ぐ「抗凝固薬(こうぎょうこやく)」というお守り

この恐ろしい心原性脳梗塞を予防するために使われるのが、「抗凝固薬」、いわゆる「血液をサラサラにするお薬」です。心臓の中に血の塊ができるのを防ぎ、脳梗塞のリスクを下げてくれます。

以前は「ワーファリン」というお薬が中心でしたが、納豆や緑黄色野菜など食事の制限があったり、効果の個人差が大きく頻繁な血液検査が必要だったりと、管理が少し大変な面がありました。

しかし、現在では「DOAC(ドアック)」と呼ばれる新しいタイプの抗凝固薬が主流になっています。DOACには4種類の薬があり、それぞれに以下のような特徴があります。

  • 1日1回の服用で済むタイプ、1日2回のタイプ
  • 口の中で溶けるOD錠があるタイプ
  • 緊急時に効果を打ち消す「中和薬」があるタイプ

このように選択肢が増えたことで、患者さん一人ひとりの年齢、腎臓の機能、ライフスタイルに合わせて、より安全で使いやすいお薬を選べるようになりました。

◆薬を飲むべき人、飲まなくても良い人 ― 大切なリスク評価

「血をサラサラにする」と聞くと、「出血しやすくなるのでは?」と心配になる方もいらっしゃると思います。その通りで、抗凝固薬の最大のデメリットは出血のリスクです。

そのため、心房細動と診断された方全員がこのお薬を飲むわけではありません。医師は、「脳梗塞になるリスク」と「出血するリスク」を天秤にかけ、お薬を飲むメリットがデメリットを上回ると判断した場合にのみ、治療を開始します。

その判断のために用いる代表的な指標が「CHADS2スコア」です。これは、以下の項目で脳梗塞のリスクを点数化するものです。

  • C:Congestive heart failure(心不全)
  • H:Hypertension(高血圧)
  • A:Age(75歳以上)
  • D:Diabetes mellitus(糖尿病)
  • S:Stroke(過去の脳梗塞や一過性脳虚血発作)

これらの項目に当てはまるものが多いほど、脳梗塞のリスクが高いと判断され、抗凝固薬による予防治療が強く推奨されます。

◆安心して治療を続けるための3つのポイント

心房細動と診断され、ただでさえ動悸や心不全の症状などでつらい中で、抗凝固薬を飲むことに不安を感じるかもしれません。しかし、専門医のもとで以下の3つのポイントをしっかり守ることで、脳梗塞のリスクを効果的に下げ、出血のリスクを最小限に抑えながら、安全に治療を続けることが可能です。

  1. 血圧の管理を徹底する
    血圧が高いと、たとえ抗凝固薬を内服していても脳梗塞のリスクが高まります。また、脳出血など出血性合併症のリスクも高まってしまいます。
  2. 定期的な血液検査を受ける
    お薬は肝臓や腎臓で分解・排泄されます。特に腎臓の機能が落ちていると、抗凝固薬が効きすぎて出血の危険性が高まることがあります。定期的に血液検査で腎臓や肝臓の機能を確認し、お薬の種類や量が適切かを見直す必要があります。
  3. 自己判断で薬をやめない
    症状がないからといって、ご自身の判断でお薬をやめてしまうのは絶対に避けてください。血栓は症状がないうちにも作られます。不安なことや気になることがあれば、必ずかかりつけ医に相談してください。

心房細動は、決して珍しい病気ではありません。そして、適切な管理さえすれば、怖い脳梗塞を予防し、健やかな生活を長く続けることができる病気でもあります。

当院は、岡山市の皆様の心臓と血管の健康を守るパートナーとして、一人ひとりの患者さんに寄り添った丁寧な診療を心がけてまいります。心房細動や不整脈、その他健康に関するご不安があれば、2026年2月の開院の際には、お気軽に「まつもと内科・循環器内科」にご相談ください。


さて、話は変わりますが、開院準備中のクリニックについても少しご報告させてください。

先週、建設中のクリニックの様子を見てまいりました。

おかげさまで外観はほとんど完成し、いよいよ建物全体の姿が見えてきました。 現在は、皆様に安心して快適に過ごしていただけるような空間を目指し、内装の打ち合わせを重ねているところです。また、質の高い医療をご提供するための医療機器の選定も、一つひとつ慎重に進めております。

2026年2月の開院に向け、皆様に信頼していただけるクリニックとなるよう準備に励んでまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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