- 2026年8月26日
健診で「血圧もコレステロールも高め」と言われたら? ー リスクは足し算ではなく、掛け算です
こんにちは。岡山市中区中納言町の「まつもと内科・循環器内科」院長の松本健佑です。
健康診断の結果を持って来られた方から、こんなふうに言われることがあります。
「血圧はちょっとだけ高い。コレステロールもちょっとだけ高い。治療は必要ですか?」
お気持ちはよく分かります。一つひとつは、たしかに大きな異常ではない。基準値をわずかに超えているだけ。しかも体はどこも悪くない。
ただ、循環器を専門にしてきた立場から申し上げると、この「どれも少しずつ高い」という状態は、注意して見ておきたいところです。理由は、リスクが足し算ではなく、掛け算で効いてくるからです。
今回は、この「掛け算」という考え方について、日本と海外のガイドラインを紹介しながら解説します。
目次
- 「どれも軽度」が、実は安心できない理由
- 日本のガイドラインも「掛け算」で考えている
- 同じ数値でも、方針は変わります
- 海外のガイドラインも、向かう先は同じ
- ご自身の血管を「見える化」する
- ご受診をお考えの方へ
1. 「どれも軽度」が、実は安心できない理由
高血圧、脂質異常症、糖尿病。これらに共通しているのは、どれも血管を傷める病気だということです。
血圧が高ければ、血管の壁に強い圧力がかかり続けます。悪玉(LDL)コレステロールが高ければ、その壁の内側にコレステロールが溜まっていきます。血糖が高ければ、血管そのものがもろくなります。
つまり、傷つけている対象が同じなのです。
一本の血管に対して、外から圧力がかかり、内側に脂が溜まり、壁の材質そのものが弱っている。この3つが同時に起きているとき、その血管に起きることは単純な足し算にはなりません。互いに影響し合って、はるかに大きな害になります。
2. 日本のガイドラインも「掛け算」で考えている
この考え方は、日本のガイドラインにも明確に示されています。
日本高血圧学会が2025年8月に発刊した『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、血圧の数値だけでなく、次のような要素を合わせて、その方のリスクを判定します。
- 喫煙
- 脂質異常症(LDLコレステロールや中性脂肪が高い、HDLコレステロールが低い)
- 肥満(とくに内臓脂肪型肥満)
- 糖尿病
- 高齢(65歳以上)
これらが重なるほど、同じ血圧の値でも「高リスク」に分類されます。
コレステロールについても同じです。日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では、「久山町スコア」という指標を使います。福岡県久山町で長年続けられてきた、日本人を対象とした研究のデータから作られたもので、次の6項目を点数化して、今後10年間に心筋梗塞や脳梗塞を起こす確率を算出します。
- 性別
- 収縮期血圧(上の血圧)
- 糖代謝異常(血糖の異常)
- LDLコレステロール
- HDLコレステロール
- 喫煙
お気づきでしょうか。コレステロールのガイドラインなのに、6項目のうちコレステロールに関するものは2つだけです。残りは血圧、血糖、喫煙、性別。
これはつまり、「あなたのコレステロールをどこまで下げるべきか」は、コレステロールの値だけでは決まらない、ということを意味しています。
3. 同じ数値でも、方針は変わります
具体的に言えば、こういうことです。
LDLコレステロールが170mg/dLだった方が2人いたとします。
Aさん:40代。血圧は正常、血糖も正常、タバコは吸わない。 Bさん:60代。血圧は少し高め、タバコを吸う。
検査用紙の上では、2人とも「LDL 170mg/dL、要指導」と同じ印がつきます。しかし久山町スコアで計算すると、10年間の発症確率は大きく違ってきます。当然、目指すべき目標値も、薬を使うかどうかの判断も変わります。
Aさんには「まずは食事と運動で様子を見ましょう」とお話しし、Bさんには「生活習慣の改善と並行して、早めにお薬を検討しませんか」とご提案する。同じ数値を見ながら、逆の方針になることがあるのが、この病気の特徴です。
「隣の人は同じ数値なのに薬を飲んでいない」「前の職場の健診では何も言われなかった」といったお話をよく伺いますが、その違いは、こうしたリスク全体の評価から生まれています。
なお、血圧については、JSH2025で降圧目標が全年齢で診察室血圧130/80mmHg未満(ご家庭での血圧125/75mmHg未満)に統一されました。当院でもこの指針に沿って管理を行っています。
4. 海外のガイドラインも、向かう先は同じ
この「リスクを一体として見る」という考え方は、日本だけのものではありません。
2026年3月、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)を中心とする11の学会が、脂質異常症のガイドラインを8年ぶりに改訂しました。ここでも、コレステロールの値だけを見るのではなく、年齢・血圧・血糖・腎機能などを統合した計算式で今後のリスクを算出し、その結果に応じて治療を決める、という考え方が採られています。
(専門的な話としては、この改訂では、2018年版でいったん取り下げられていたLDLコレステロールの治療目標値が復活したこと、リスク計算式が新しいものに入れ替わったこと、Lp(a)という遺伝的に決まる項目を一生に一度は測るよう勧められたことなどが、大きな変更点でした。ただし、この計算式は主に米国の方々のデータから作られたもので、日本人にそのまま当てはめられるものではありません。当院では引き続き、日本人のデータから作られた久山町スコアを用いています。)
国も、対象とする人種も、使う計算式も違う。それでも結論は同じです。高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病をそれぞれ切り分けて診るのではなく、その人の血管全体のリスクとして診る。これが現在の世界共通の考え方です。
5. ご自身の血管を「見える化」する
とはいえ、計算式で出てくるのは「10年間に○%」という確率です。ご自身のことだと実感しにくい、という方も多いと思います。
そこで当院では、実際の血管の状態を見ていただくようにしています。
- 頸動脈エコー:首に超音波の機械を当てるだけの検査です。血管の壁の厚さや、動脈硬化によってできる「プラーク」の有無を、その場で画面でご覧いただけます。首の血管の状態は全身の動脈硬化を映すとも言われ、心臓や脳の血管を推し量る手がかりになります。
- ABI(足関節上腕血圧比):腕と足首に血圧計のような装置を巻いて測ります。痛みはほとんどなく、数分で終わります。足の血管の詰まりや、血管の硬さを数値で確認できます。
いずれも痛みも被ばくもなく、当院で行える検査です。
6. ご受診をお考えの方へ
健診の結果に、いくつも小さな印がついていた。そのことに気づかれた時点で、すでに大きな一歩です。一つひとつが軽度のうちに手を打てるのは、実はとても恵まれた状況です。
当院では、「病気の予防とその後のケアの両方を大切にし、患者さま一人ひとりが安心して日々を過ごせる医療を目指す」という理念のもと、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病診療に力を入れています。
「どれも少しずつ高いと言われたが、何から手をつければいいか分からない」「自分はどのくらいのリスクなのか知りたい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
当院は岡山市中区にありますが、旭川を渡ってすぐの場所に位置し、北区(表町・内山下方面)からもアクセスしやすい立地です。広い駐車場も完備しております。
今回の記事に関連するQ&A
健診でいくつも「やや高め」の印がついていましたが、どれも基準値ギリギリです。放置してもいいですか?
一つひとつが軽度でも、複数が重なると話が変わります。高血圧・脂質異常症・糖尿病はいずれも同じ血管を傷める病気で、外から圧力がかかり、内側に脂が溜まり、壁そのものが弱る——これが同時に起きているとき、害は単純な足し算にはなりません。久山町スコアのようなリスク評価を使えば、10年以内に心筋梗塞や脳梗塞を起こす確率を数値として把握できます。症状がないことは安全の証明にはならないので、軽度のうちにリスク全体を評価しておく意味は大きいと言えます。
同じ職場の人と数値がほぼ同じなのに、あちらは薬を飲んでいて自分は飲んでいません。なぜ違うんですか?
コレステロールや血圧の値だけで治療方針が決まるわけではないからです。動脈硬化性疾患予防ガイドラインの久山町スコアは、性別・収縮期血圧・血糖・LDL・HDL・喫煙の6項目から10年間の発症確率を算出しますが、コレステロールに関する項目は6つのうち2つだけ。つまり同じLDL 170mg/dLでも、年齢や血圧、喫煙の有無によって目標値も薬の必要性も変わります。「隣の人と違う」のは判断のばらつきではなく、リスク全体の評価が違うということです。
動脈硬化がどれくらい進んでいるか調べたいのですが、大変な検査になりますか?
頸動脈エコーとABIが基本で、どちらも痛みも被ばくもありません。頸動脈エコーは首に超音波の機械を当てて、血管壁の厚さやプラーク(脂の塊)の有無をその場の画面で確認できる検査。ABIは腕と足首に血圧計のような装置を巻いて数分で終わり、足の血管の詰まりや血管の硬さを数値化します。「10年間に○%」という確率だけでは実感しにくい部分を、実際の画像と数値で補える点が利点です。
血圧もコレステロールも高めだと、内科と循環器内科のどちらに行けばいいのでしょうか。
数値の管理そのものは内科やかかりつけ医で対応できることが多いです。ただ、複数のリスクが重なっている場合は、それらを一体として評価し、実際に血管がどこまで傷んでいるかを画像で確認できる環境が役に立ちます。頸動脈エコーやABIを実施・判読できるか、心電図異常や息切れがあったときに心エコーまで対応できるかは、選ぶ際の一つの目安。すでに複数の医療機関に分かれて通院している方は、どこがリスク全体を見ている窓口なのかを一度整理しておくといいかもしれません。
血圧もコレステロールも高めですが、何から手をつけるのが効率的ですか?
喫煙している場合は禁煙が最優先です。久山町スコアの6項目に喫煙が入っていることからも分かるように、複数のリスクが重なっている状態では影響が特に大きくなります。次に効くのが減塩(1日6g未満が目安)と、早歩き程度の有酸素運動を1回30分・週3〜5回。血圧については、JSH2025で降圧目標が診察室130/80mmHg未満、家庭125/75mmHg未満に統一されたので、家庭血圧を朝晩記録しておくと現在地がはっきりします。全部を一度に変える必要はなく、効果の大きいものから順に取り組むほうが続きやすいでしょう。
参照資料
- 日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』
- 日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』
- 2026 ACC/AHA/Multisociety Guideline on the Management of Dyslipidemia. Circulation.
まつもと内科・循環器内科 院長 松本 健佑(循環器専門医)