- 2026年5月29日
【循環器専門医が解説】「血圧少し高め」の放置は危険?自覚症状ゼロで進む臓器ダメージ(HMOD)とは
2026年5月28日、『心不全地域連携フォーラム in 岡山』に参加してまいりました。このフォーラムでは、地域の病院と診療所、さらには診療所同士がしっかりと連携し、地域全体で心不全に立ち向かっていこうという非常に前向きな話し合いが行われました。
その中で重要な話題の一つとして取り上げられたのが、「高血圧性臓器障害(HMOD:Hypertension-Mediated Organ Damage)」です。
健康診断で「少し血圧が高めですね」と言われたとき、「とくに自覚症状もないし、大丈夫だろう」と放置してしまっていませんか? 今回は、最新の医学論文やガイドラインをもとに、高血圧が体に及ぼす本当の怖さと、それを見逃さないための検査(特にBNP検査)の重要性についてお話しします。
目次
- 「少し血圧が高め」を放置する本当の怖さとは?
- 臓器のダメージがあると、将来のリスクは「2〜3倍」に
- 高血圧を指摘されたら受けるべき「3つの基本検査」
- 血圧が「130〜139 / 80〜89 mmHg」の方への精密検査
- 血液検査(BNP)で心臓のSOSを早期にキャッチ
- BNPが高いと言われたら、循環器内科へご相談を
- 今回の記事に関連するQ&A
1. 「少し血圧が高め」を放置する本当の怖さとは?
高血圧の本当の怖さは、自覚症状が全くないまま、体の中の重要な臓器(心臓、血管、脳、腎臓、目など)を静かに、そして確実に傷つけていくことにあります。これを医学の専門用語で「高血圧性臓器障害(HMOD)」と呼びます。
高血圧症は症状が出る前に治療を行い、「臓器障害の予防」と「臓器障害の早期発見」が重要になります。
2. 臓器のダメージがあると、将来のリスクは「2〜3倍」に
欧州心臓病学会(ESC)から2026年に発行された医学誌『European Journal of Preventive Cardiology』の最新レビュー論文では、高血圧性臓器障害(HMOD)のリスクについて以下のように述べられています。
- 上の血圧(収縮期血圧)が120 mmHgを超えている方で、すでにこの臓器障害(HMOD)が始まっている場合、将来、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を起こすリスクが2〜3倍に跳ね上がる。
だからこそ、「血圧を下げる」ことと同じくらい、「自分の臓器がすでにダメージを受けていないかを調べる」ことが非常に重要なのです。
3. 高血圧を指摘されたら受けるべき「3つの基本検査」
同論文では、高血圧を指摘された方が、臓器からのSOSを早期にキャッチするために、最低限受けるべき基本検査が示されています。
- 心電図検査: 左室肥大など、心臓に負担がかかっていないかを確認します。
- 血液検査(腎機能): 腎臓の働きを示す「eGFR(推算糸球体濾過量)」を確認します。この数値が30〜59 mL/min/1.73 m²に低下していると、腎臓へのダメージが疑われます。
- 尿検査(微量アルブミン): 朝一番の尿で、尿中のアルブミン値(UACR)を調べます。数値が30〜300 mg/gの範囲で出ている場合、腎臓の細い血管が傷つき始めているサインとなります。
4. 血圧が「130〜139 / 80〜89 mmHg」の方への精密検査
血圧が「130〜139 / 80〜89 mmHg」という「高値血圧(軽症の高血圧)」の範囲であっても、決して安心はできません。同論文では、医師が必要と判断した場合、血管や心臓の状態を詳しく調べるために以下の追加検査を考慮することが推奨されています。
- 動脈の硬さの検査(脈波伝播速度:PWV): 血管の年齢や硬さを調べます。数値が10 m/s(測定方法によっては14 m/s)を超えていると、動脈硬化が進んでいるサインです。
- 手足の血圧の比較(ABI検査): 足の血管が詰まっていないかを調べます。0.9未満、あるいは1.4より大きい場合は、血管に異常がある可能性が高い状態です。
- 血管の超音波(エコー)検査: 首(頸動脈)や足の付け根(大腿動脈)の血管の壁にプラーク(脂肪などの塊)がないかを見ます。厚さ(IMT)が1.5 mmを超えていると、血管が狭くなっているリスクがあります。
- 心臓超音波(エコー)検査: 左室肥大や左房拡大、心臓の拡張機能の低下などがないかを詳しく確認します。
5. 血液検査(BNP)で心臓のSOSを早期にキャッチ
上記の基本検査に加え、当院が非常に重要視しているのが、血液検査でわかる「BNP」または「NT-proBNP」という数値です。これらは心臓に負担がかかると分泌されるホルモンで、心不全の早期発見に欠かせません。
2025年10月に日本心不全学会から発表された「心不全予防に関するステートメント」では、以下のように明記されています。
- 高血圧などの心不全リスク(ステージA)がある患者さんには、心不全の発症を見逃さないために、少なくとも1年に1回はBNPまたはNT-proBNPを測定する。
- BNPが35 pg/mL以上、またはNT-proBNPが125 pg/mL以上の場合は、心臓に構造的・機能的異常が生じている「前心不全(ステージB)」へ移行したと判断し、循環器専門医へ紹介し連携して治療を行う。
私たちが以前からお伝えしているように、症状が出る前の「ステージB」を見落とさないことが、将来の重篤な心不全を防ぐための最大の鍵となります。

※心不全のステージについては以前投稿した、症状のない『前心不全』とは?にも記載していますので、参考にしてください。
6. BNPが高いと言われたら、循環器内科へご相談を
高血圧症で通院中の方や、健康診断で「BNP(またはNT-proBNP)値が高い」と指摘された方は、心臓が悲鳴を上げ始めているサインかもしれません。自覚症状がなくても、まずは一度、循環器内科を受診し、心臓や血管の状態を詳しく確認しましょう。
当院では、心臓超音波(エコー)検査や各種血液検査を用いて、心臓の状態を正確に評価します。また、必要に応じて地域の基幹病院や、訪問看護ステーション、ケアマネジャーの皆様としっかり連携を取りながら、患者さま一人ひとりに最適な医療を提供してまいります。
血圧や心臓のことで少しでも不安がある方は、岡山市の「まつもと内科・循環器内科」まで、どうぞお気軽にご相談ください。
ご受診をお考えの方へ
当院では、「病気の予防とその後のケアの両方を大切にし、患者さま一人ひとりが安心して日々を過ごせる医療を目指す」という理念のもと、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病診療にも力を入れています。
「血液検査でBNP値は少し高いけど、心電図や心エコーなどの検査は行っていない」という方、ぜひ一度ご相談ください。
当院は岡山市中区にありますが、旭川を渡ってすぐの場所に位置し、北区(表町・内山下方面)からもアクセスしやすい立地です。広い駐車場も完備しております。
7.今回の記事に関連するQ&A
血圧が少し高めと言われているだけで、症状は何もありません。それでも検査が必要なんですか?
高血圧性臓器障害(HMOD)の怖さは、まさに「症状が出ない」ことにあります。心臓・血管・腎臓・脳といった臓器へのダメージは、自覚のないまま静かに積み重なっていきます。収縮期血圧が120mmHgを超えている方でHMODがすでに始まっている場合、心筋梗塞や脳卒中のリスクが2〜3倍に上昇するというデータがあります。症状がないことは「安全」の証明にはならないため、定期的な検査で臓器の状態を確認しておくことが重要です。
高血圧の薬を飲んでいれば、臓器へのダメージは防げますか?
血圧を下げること自体は非常に重要ですが、それだけでは不十分な場合があります。すでに臓器障害(HMOD)が始まっているかどうかによって、治療の優先度や薬の選択が変わることがあります。たとえば腎機能の低下や微量アルブミン尿が確認された場合、腎保護効果のある降圧薬が選ばれることが多い。どの薬が自分に適しているかは、臓器の評価結果を踏まえて判断する必要があるため、血圧の数値だけで薬を選んでいる場合は一度見直しを検討してもいいかもしれません。
高血圧で受けるべき検査って、具体的にどんなものがありますか?痛いですか?
基本的な検査は3つ、心電図・血液検査(腎機能:eGFR)・尿検査(微量アルブミン)で、いずれも痛みのほとんどない検査です。血圧が130〜139/80〜89mmHgの「高値血圧」の段階でも、医師が必要と判断すれば追加で動脈の硬さを測るPWV検査、手足の血圧比(ABI)、頸動脈エコー、心臓エコーなどが行われます。心臓への負担を血液で調べるBNP検査も採血だけで完結し、BNPが35 pg/mL以上・NT-proBNPが125 pg/mL以上であれば「前心不全(ステージB)」への移行を疑う基準とされています。
かかりつけ医で高血圧の薬をもらっているのですが、循環器内科にも行った方がいいですか?
かかりつけ医での管理で問題ない方も多いですが、いくつかのサインがある場合は循環器専門医の評価を受ける価値があります。具体的には、BNP・NT-proBNPの値が上記の基準を超えている場合、心電図で左室肥大を指摘されたことがある場合、eGFRの低下や尿中アルブミンの異常が出ている場合などです。日本心不全学会のステートメントでも、こうした前心不全の段階では循環器専門医への紹介と連携が明記されています。「血圧の薬は飲んでいるが、心臓の状態を一度も詳しく調べたことがない」という方は、一度相談してみることを検討してもいいでしょう。
高血圧で臓器へのダメージを防ぐために、日常生活でできることはありますか?
食塩の摂取量を1日6g未満に抑えることが、降圧効果として最も根拠のある生活習慣の改善です。それに加えて、有酸素運動(早歩き程度)を1回30分・週3〜5回続けることも血圧に良い影響が出ることがわかっています。飲酒は少量でも血圧を上昇させるため、習慣的な飲酒がある方は量を見直す余地があります。家庭血圧を毎朝記録しておくと、受診時に医師が臓器障害のリスクをより正確に判断できる材料になるため、血圧計を持っている方は継続的な記録を習慣にしてください。
まつもと内科・循環器内科 院長 松本 健佑(循環器専門医
参照資料
- 『心不全予防に関するステートメント』 日本心不全学会
- European Journal of Preventive Cardiology (2026) 33, 1021–1032