- 2026年8月3日
【講演会レポート】心不全は「退院してから」が大切 ― 新しい制度と、病院・クリニックの連携について
こんにちは。岡山市中区中納言町の「まつもと内科・循環器内科」院長の松本健佑です。
2026年7月30日、心臓病センター榊原病院で開かれた心不全に関する勉強会に参加してきました。今回の主なテーマは、2026年6月の診療報酬改定で新しくつくられた「心不全再入院予防継続管理料」という制度についてでした。
制度の名前だけを聞くと難しく感じられると思いますが、この制度が伝えようとしていることは、実はとても大切で、心不全で入院された経験のある方やそのご家族にこそ知っていただきたい内容です。岡山市中区・北区にお住まいで、退院後の心不全のことが気がかりな方に向けて、その要点を患者さんに伝わる言葉でお話しします。
なぜ「退院してから」が大切なのか
心不全は、入院中の治療で症状が落ち着いて退院できても、その後に再び悪化しやすい病気です。特に退院してすぐの時期は体調が不安定で、心不全の再発(急性増悪)による再入院のリスクが高い時期とされています。
なぜなら、退院後の生活の中には、体調を左右する要素がたくさんあるからです。塩分や水分のとり方、お薬の飲み忘れ、体重が少しずつ増えていることに気づかない、息切れやむくみを「年のせいかな」と見過ごしてしまう――こうした小さな変化の積み重ねが、再入院につながってしまうことがあります。
この退院前後から退院後早期の不安定な時期は、2025年3月に改訂された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会・日本心不全学会の合同研究班)でも「脆弱期(ぜいじゃくき/vulnerable phase)」と呼ばれ、多職種による継続的なケア(移行期ケア)を含む包括的な管理が極めて重要であると明記されています。この不安定な脆弱期を無事に乗り切るためには、急性期治療を行った「病院」と、退院後の日常的なケアを担う「地域のクリニック(かかりつけ医)」との緊密な連携が欠かせません。
だからこそ、退院した後の数か月から1年ほどのケアが、その後の経過を大きく左右します。今回の改定で新しい制度がつくられた背景には、「心不全は退院して終わりではない」という考え方があります。
新しい制度が目指していること ― 病院とクリニックの連携
この「心不全再入院予防継続管理料」は、急性心不全で入院した患者さんを、退院後も地域で支えていくことを評価する制度です。急性期の病院と、地域のかかりつけクリニックが連携して、退院後の再入院を防いでいこうという仕組みになっています。
この連携を進めるために、病院は定期的に勉強会を開き、地域のクリニックはその勉強会に参加して、心不全治療の知識をアップデートしながら病院とのつながりを深めていく、という形が想定されています。今回私が参加した勉強会も、その一つです。
新しくできたばかりの制度なので、細かな確認事項はまだ多くあるのですが、私が特に「これは大切だ」と感じたのは、病院とクリニックの間で交わされる情報共有が、これまでより充実していくという点です。
これまでも、病院とクリニックの間では紹介状でやり取りが行われてきました。ただ、従来の紹介状は「いつ入院し、どんな治療をして退院しました。お薬はこうです。継続をお願いします」といった内容が中心でした。ここに、今回の連携を通じて、より踏み込んだ情報が加わっていきます。たとえば、その患者さんの目標とする体重や、血圧をどう管理しているかといった、退院後のケアに直結する情報です。
病院が心不全の患者さんについて丁寧に評価し、今後の治療方針を立てても、その詳しい内容がこれまで地域のクリニックには十分には伝わりきっていない面がありました。この情報が共有されることで、病院を退院して地域のクリニックに戻った後も、同じ目標に向かって再入院を予防していける――これが、この制度の目指すところだと理解しています。
当院ができること
当院は、循環器を専門とする私(循環器専門医)が心不全の診療にあたっています。心不全の詳しい評価や専門的な治療そのものは、設備や体制の整った病院にはかなわない部分もありますが、だからこそ、退院された後を地域で支える「かかりつけ」の役割が大切になります。
当院は、この新しい制度で退院後のかかりつけクリニックとして評価される「心不全再入院予防継続管理料(管理料3)」を算定できる体制を整えています。具体的には、管理栄養士に定期的に来院してもらい、栄養指導を行う体制を整え、クリニックとしての栄養指導を2026年8月から開始します。心不全において食事(特に塩分)の管理は再入院予防の要のひとつであり、専門的な栄養指導を受けられることは、退院後の生活を支える大きな助けになります。
加えて私はこれまで、急性期の心臓専門病院である榊原病院での勤務歴が長く、そこで病院側の立場から地域のかかりつけ医との連携を数多く経験してきました。開業した今は、かかりつけ医の立場から病院と連携する側になります。病院とかかりつけ医の両方の立場を経験しているからこそ、専門的な治療が必要な段階かどうかを見極め、必要なときには適切なタイミングで病院におつなぎすることができます。退院後の日常的なケアは当院で、より専門的な評価や治療が必要になったときは病院で――この「次の一手が見えている」連携が、患者さんの安心につながればと思っています。
こんな方は一度ご相談ください
- 過去に心不全と診断されたことがある方
- 心不全で入院・治療を受けたことがある方
- 今、息切れ・むくみ・動悸など、心不全に関わる症状で困っておられる方
- 退院した後の経過が心配な方、ご家族が心配な方
当院で適切な評価を行い、必要があれば病院の先生に診ていただく、そして落ち着いたら地域のクリニックで継続して管理していく――そうした流れの入り口として、一度ご相談いただければと思います。岡山市中区・北区で、退院後の心不全の管理を相談できるかかりつけ医をお探しの方は、どうぞ当院にご相談ください。
心不全は、退院してからの過ごし方と、病院・クリニックの連携で、その後が変わってくる病気です。ご自身やご家族のことで気になることがあれば、どうぞお気軽にお声かけください。
今回の記事に関連したQ&A
心不全で入院しましたが、退院してからは調子がいいです。それでも通院を続ける必要がありますか?
退院直後こそ、実は最も注意が必要な時期です。この時期は「脆弱期(ぜいじゃくき)」と呼ばれ、体調が不安定で再入院のリスクが高いことがガイドラインでも明記されています。調子がよく感じられていても、体重がじわじわ増えていたり、血液検査のBNP値が上がり始めていたりと、水面下で変化が起きていることがあります。症状の有無にかかわらず、通院は続ける必要があります。
心不全の薬、体調がいいなら減らしたりやめたりできませんか?
症状が落ち着いているのは薬が効いている結果であることが多く、自己判断での中止・減量は再発の引き金になりやすい部分です。心不全の薬は「症状を抑える薬」と「心臓を守り、再入院や生命予後を改善する薬」が組み合わされていて、後者は調子がいい状態でも継続する意味があります。退院時に病院で立てられた治療方針には、目標とする体重や血圧の管理値まで含まれていることがあり、それを踏まえて調整するのが基本。飲みにくさや副作用が気になる場合は、勝手に止めるのではなく主治医に伝えて調整の相談をするのが安全です。
退院後のフォローでは、どんな検査をするんですか?毎回大変な検査があるのは負担です。
中心になるのは、体重・血圧の確認、血液検査(BNPやNT-proBNP、腎機能、電解質)、心電図、胸部レントゲンといった負担の軽いものです。血液検査は採血のみ、心電図も数分で終わります。必要に応じて心エコー(心臓超音波)で心臓の動きやむくみの程度を確認しますが、これも痛みはなく15〜30分程度。毎回すべてを行うわけではなく、状態に応じて組み合わせるのが一般的です。むしろ日々の体重測定など、ご自宅での記録のほうが判断材料として重要になる場面も多くあります。
心不全で入院した病院と、近所のクリニック、どちらに通えばいいのか迷っています。
どちらか一方を選ぶというより、役割分担で考えるのが現実的です。日常的な体重・血圧・お薬の管理や栄養面のフォローは通いやすい地域のクリニックが担い、詳しい評価や治療の見直しが必要になった段階で病院につなぐ、という流れが想定されています。2026年度の診療報酬改定で新設された「心不全再入院予防継続管理料」も、まさにこの病院とクリニックの連携を評価する仕組みです。クリニックを選ぶ際は、循環器を専門とする医師がいるか、病院との連携体制があるかを確認しておくと安心材料になります。
心不全の再入院を防ぐために、家で何に気をつければいいですか?
毎日の体重測定が最も手軽で、最も役に立ちます。朝起きて排尿後、同じ条件で測り、3日で2kg以上増えていたら体に水が溜まり始めているサインの可能性があります。塩分は1日6g未満が目安とされ、汁物を残す・加工食品や漬物を控えるといった具体的な工夫が効いてきます。合わせて、足のむくみ、階段や坂道での息切れの変化、夜間に横になると息苦しいといった変化も記録しておくと判断に役立つ。塩分管理は自己流だと難しい部分もあるため、管理栄養士による栄養指導を受けられる環境があれば活用する価値があります。
ご受診をお考えの方へ
当院では、「病気の予防とその後のケアの両方を大切にし、患者さま一人ひとりが安心して日々を過ごせる医療を目指す」という理念のもと、不整脈・心不全・狭心症といった心臓の病気の診療に力を入れています。ぜひ一度ご相談ください。
当院は岡山市中区にありますが、旭川を渡ってすぐの場所に位置し、北区(表町・内山下方面)からもアクセスしやすい立地です。広い駐車場も完備しております。
まつもと内科・循環器内科 院長 松本 健佑(循環器専門医)
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』
※本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後の運用で変わる可能性があります。