心不全診療について

息切れ、むくみ、動悸……その症状は「心不全」のサインかもしれません。 心不全は「治る病気」ではなく、高血圧や糖尿病と同じく「長く付き合っていく病気」です。しかし、適切な管理を行えば、これまで通りの生活を長く続けることができます。 当院では、最新ガイドラインに基づいた標準治療を提供し、心臓のポンプ機能を守り、再入院を防ぐための専門的な管理を行います。

心不全とはどのような病気か?

心不全とは、心臓のポンプ機能が低下することで全身に十分な血液を送り出せなくなり、体に水分が溜まったり、息苦しくなったりする状態のことです。 日本循環器学会の定義では、以下のように説明されています。
「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」
心不全は、ある日突然発症するものではなく、高血圧や生活習慣病、弁膜症などの積み重ねによって起こります。一度悪くなると完全に元に戻ることは難しいため、「悪化させない(進行を食い止める)」ことが治療の最大の目標となります。

心不全の4つの分類

「心不全」とひとくちに言っても、その病態は患者さんごとに異なります。 これまで心不全は「心臓の動きが悪い(収縮力が弱い)」タイプが主流でしたが、近年、高齢化に伴い「心臓の動きは保たれているのに心不全」というタイプ(HFpEF)が急増しています。
当院では、心臓超音波検査(心エコー)を用いて、ポンプ機能の指標である「左室駆出率(LVEF)」を測定し病態を診断します。

1. 収縮能が低下した心不全(HFrEF)

心臓のポンプを収縮させる力が弱くなっているタイプです(LVEF 40%以下)。心筋梗塞や心筋症などが主な原因です。近年、複数の薬剤が登場しており、適切な薬物治療で改善がみられる場合があります。

2. 収縮能が保たれた心不全(HFpEF)

心臓の収縮する力は正常(LVEF 50%以上)ですが、心臓が硬くなり、広がる力(拡張能)が低下しているタイプです。高齢の女性や、高血圧・心房細動をお持ちの方に多く見られます。 「検査では心臓は元気ですね」と言われたのに息切れがする方は、このタイプの可能性があります。診断には専門的なエコー評価が必要です。

3. 収縮能が軽度低下した心不全(HFmrEF)

上記2つの中間の状態です(LVEF 41-49%)。HFrEFに準じた治療を行う場合や、HFpEFに近い管理を行う場合など、患者さんの背景に合わせたきめ細かな調整が必要です。

4. 収縮能が改善した心不全(HFimpEF)

もともと収縮力が低下していた(LVEF 40%以下)心臓が、治療によって改善した(LVEF 40%超)状態を指します。 「治った」と安心して薬をやめてしまうと、再び悪化するリスクが高いため、治療の継続が極めて重要です。この概念は2025年ガイドラインでも特に強調されており、当院でも「改善した後の管理」を重視しています。

心不全の進行ステージと「予防」の重要性

心不全には「ステージA」から「ステージD」までの4つの段階があります。 最も大切なのは、症状が出る前の「ステージA・B」の段階で介入することです。

  • ステージA(心不全リスク): 高血圧、糖尿病、肥満などがあるが、心臓自体にはまだ異常がない状態。
  • ステージB(前心不全): 心肥大や弁膜症などの異常はあるが、息切れなどの症状はまだない状態。
  • ステージC(症候性心不全): 息切れやむくみなどの症状が出現した状態。
  • ステージD(治療抵抗性心不全): 薬物治療やデバイス治療など有効とされるすべての治療を行っても症状がある重症の段階。

当院は「内科・循環器内科」として、ステージA(生活習慣病管理)からステージC(慢性心不全管理)まで、一貫した治療を提供できることが強みです。

当院の検査・診断体制

心不全の診断と管理には、心臓の形や動きを見る「画像検査」と、負担の程度を測る「血液検査」が重要です。

1. 心臓超音波検査(心エコー)

超音波を使って心臓の動きをリアルタイムに観察します。痛みや被曝のない検査です。 当院では、心不全のタイプ(HFrEFかHFpEFか)の分類はもちろん、弁膜症の有無や心臓の圧力の状態まで詳細に評価します。

2. 血液検査(BNP / NT-proBNP)

心臓に負担がかかると分泌されるホルモン(BNPまたはNT-proBNP)の値を測定します。 これは心不全の重症度を客観的に示す「心臓のSOSサイン」です。当院では迅速検査(即日結果)は行っておりませんが、定期的にこの数値を測定し、前回の値と比較することで、「心臓の状態が悪化傾向にないか」「治療の効果が出ているか」を慎重に判断します。

3. 胸部レントゲン・心電図

心臓の大きさ(心拡大)や肺に水が溜まっていないか(肺うっ血)、不整脈が出ていないかを確認します。

専門病院との連携による治療の最適化

心不全治療を含め、医学は日進月歩です。過去に常識とされていた治療が現在では否定されたり、逆に新しい治療法がスタンダードになったりすることは珍しくありません。
当院では、常に最新の知見を学び続け、現時点で最も推奨される「ガイドラインに準拠した標準治療(GDMT)」を基本とします。しかし、当院だけですべての評価ができるわけではありません。 「最新の医学に照らし合わせても、今の治療が『最適』と言えるか」を確認するために、定期的に高度専門医療機関(心臓病センター榊原病院など)と連携し、より精密な評価を行っていただきます。
専門病院での評価結果をもとに、当院での日々の処方や管理方針を適宜修正・アップデートしていく。この「専門病院との密な連携」こそが、患者さんの長期的な安心につながると考えています。

日々の治療:ファンタスティック・フォー(4本の柱)

最新のガイドラインに基づき、以下の4種類の薬を中心に、患者さんの状態に合わせて調整します。

  1. β遮断薬
  2. ACE阻害薬 / ARB / ARNI
  3. MRA
  4. SGLT2阻害薬

生活習慣の管理と運動療法

  • 体重と血圧の測定: 当院では日々の「体重測定」と「血圧測定」を非常に大切にしています。これらは心臓の負担を知るための通信簿です。「数日で体重が急に増えた」「血圧が不安定」といった変化は心不全悪化の兆候ですので、診察時に手帳を確認しながら検査・治療指針の見直しや生活指導を行います。
  • 尿のトラブル(頻尿、血尿、尿の出が悪い 等)
  • 減塩: 1日6g未満を目標に、無理なく続けられる減塩のコツをお伝えします。
  • 運動の指導・提案: 当院では専門的な心臓リハビリテーションの提供は行っておりませんが、患者さんの心機能に応じた「適切な運動強度」や「運動の種類」についての具体的な指導・提案を行います。過度な安静はかえって体力を低下させますので、安全に動くためのアドバイスをさせていただきます。

患者さんへ

心不全は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進行する病気ですが、適切な「医療」と「自己管理」によって、その進行を緩やかにし、入院することなく自宅で過ごす時間を長くすることができます。
私は約10年間にわたり、心臓病センター榊原病院にて、24時間体制で心臓病と向き合う急性期治療に携わってきました。 心臓専門病院の最前線で、数多くの重症心不全患者さんの治療にあたってきた経験から言えることは、「悪くなってから病院に行く」のではなく、「悪くならないように通院で調整する」ことの重要性です。
「少し息切れが強くなったかな?」という段階で、お薬を調節したり、生活習慣を見直したりすることで、大きな悪化を防げます。 また、医学が進歩する中で、常に最適な治療を受けていただくため、必要に応じて専門病院への紹介や定期的な評価依頼も積極的に行います。 専門病院での経験とネットワークを活かし、地域のかかりつけ医として、皆さんの心臓を専門的な視点で見守り続けます。

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